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「朋友」
1991年2月下旬。

ようやく中山大学に到着した僕は、ルームメイトを紹介された。というか、部屋に連れて行かれた。303号室。そこが僕がこれから2年間過ごす部屋だ。

「もっと中国語をちゃんと勉強したいから日本人がいいんだってさ」。先導してきた留学生楼の服務員が紹介してくれた。「えっ、日本人がいい?中国語をちゃんと勉強したいから?」。部屋の中にいた男は僕を見てニヤッと笑った。人懐こそうな笑顔だ。アジア人の顔をしているのに、どこか堂々としていて、立派な体躯をしていた。

「ニーハオ!」。僕が声を掛けると、「ニーハオ!ゼンマヤン?」と答えた。彼はベンと言う韓国系アメリカ人、後で分かったのだがニューヨークシティカレッジからの交換留学生だった。本来、彼ら交換留学生は半年間の留学生活を送る。しかしベンは自ら半年延長を志願して、他の交換留学生が帰った後も居残っていたのだった。ベンは僕より2つ年上で、ギターが上手くてその顔に似合わないソフトボイスのフュージョン系の歌を歌うのが好きだった。欧米系の留学生は「Hello! How are you?」をそのまま中国語にして毎日会うたびに言ってくる。「シェンマ ゼンマヤン?(何がどうしたの?)」と返すと哀しそうな顔をする。「シェシェ、ゼンマヤン!」と言わないといけないのだ。これが留学生中国語というやつだ。

ベンは最近太ってきたのを気にしていた。タバコを吸う度に腕立て伏せを10回やって、「これで一石二鳥!」と得意げだった。以前軍隊にいたことがある、とかで自分の追い込み方は軍隊式だ。三日坊主なのがたまにキズだけど。

僕が荷物を降ろして互いに簡単な自己紹介をしていると、いきなりこれまた大男が部屋に乗り込んで来た。隣の304号室に住むトロイだ。彼はサモア人、おじいさんがイギリス人だからクオーターだ。ニュージーランドのオークランド大学で日本語を勉強していたらしい。達者な日本語を話す。

「ベンのルームメイト?」。

優しいけどやんちゃな感じのナイスガイ。留学生楼にサモアルックを流行らせようと躍起になるのはそれからしばらくのことだ。ベンとトロイ、それからドイツ人の愛称「ベイビー」君の3人でカラフルな腰巻を巻いて徘徊するようになる。僕は何だか気恥ずかしくて参加しなかったけど。しかしトロイはフルチンで腰巻はつけられるのに、何故かどんなに暑くても上半身は裸になることはなかった。

「布をさ、サモアで買いつけて、中国で縫製してから香港とかシンガポールで売るといい商売になると思うんだけどなあ」。トロイは起業家なのだ。

「相撲のね、小錦とか曙はね、本当はサモア人なんだよ。ハワイ人はあんなに大きくない。奴らはサモアの血をひいているんだ」。誇り高きサモア人のトロイなのだった。

二人とも漢字の名前があった。ベンは「鄭虎承」、トロイは「江涛」。ベンはともかく、どうしてトロイに漢字の名前があるのか不思議だったが、きっと仲の良い中国人の友達に付けてもらったのだろう。広州に来る前は上海にいたこともあったらしい。

こうして僕らは仲良くなり、タロイモがメインのサモア料理をディナーにするようになった。
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